【更新】RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント

  • 2月 16, 2023
  • RFID

ユニクロの無人レジを利用したことはありますか?

実は、あの一瞬でお会計ができてしまう無人レジの仕組みがRFIDです。RFIDの普及がはじまり、アパレル業界を中心に在庫管理や無人レジなど、私たちの生活に大きな変化をもたらしてきています。アパレル業界だけではなく、海外ではウォルマートなどの『小売・流通業』から、BMWやフォルクスワーゲンなどの『製造業』、またデルタ航空などの『航空業』までRFIDが幅広く活用されています。

また、海外だけではなく日本でも、コンビニやドラッグストアのスマートストア化※1に活用できるのではないかと経済産業省を中心に実証実験がはじまっています。そして、2023年から書籍にもRFIDタグの活用が始まる予定です。→ 詳細はこちら

※1 スマートストア:AI、カメラ、電子タグなど様々なツールを用いて流通をデジタル化し、業務効率化やデータ利活用 による新たな価値の創造を目指す店舗

RFIDを活用した業務効率化は在庫管理や無人レジだけでなく、棚卸し自動化や消費期限に応じた価格変更など様々な活用方法が考えられ、小売・流通に新たな未来像をもたらしてくれると期待されています。さらに技術革新により、RFIDタグ(ICタグ)の位置特定までできるようになっており、今後の可能性は無限大です。

今回の記事では、ユニクロやコンビニにおけるRFIDの活用事例を通して、RFIDが小売・流通業を今後どのように変革していくのか、また、様々な分野で注目を集めている画像認識との違いについて紹介します。小売・流通に限らず、他業界でRFID導入を検討している方に向けて新たなビジネスチャンスのヒントになればと思います。

 

ユニクロでフル活用されるRFID

 

2018年以降、ユニクロは全商品に対してRFIDタグを貼り付けています。下の写真のように、下げ札を光にあてると中に入っているRFIDタグが透けて見えます。服資材メーカーが、下げ札の形に加工してアパレルに提供しているので、アパレルではRFIDタグを貼り付ける新たな作業は発生しないことが一般的です。また、安価なので使い捨てとなっています。(ZARAではプラスチックケースにRFIDタグを入れて再利用しているようですが、珍しいケースです。)

ユニクロは大きなサプライチェーン改革に取り組んでおり、改革の肝となっているのがRFIDです。RFID活用により、在庫管理や無人レジなど店舗業務の効率化をはじめ、生産から物流までサプライチェーン全体の効率化を目指しています。これまでユニクロは、年間13億着もの服をつくるため、製造、輸送、販売全てのサプライチェーンに無駄があったと言います。

  • どこで
  • どれくらい作られているのか
  • いつ倉庫に届くのか
  • どれくらい倉庫に保管されているのか
  • バックルームにどれくらいの在庫があるのか

などすべては把握できていない状況でした。 また、把握しようにも作業を人力で行うこととなるためコストが膨れ上がっていました。しかし、RFID導入によって、これらの課題解決を目指しています。例えば、全商品に生産段階でRFIDタグを貼ることで、どの商品がどこにどれくらいあるのか瞬時に把握できるようになります。そして、在庫情報を各領域超えて共有できるため、サプライチェーン全体で完全連動したSKU管理を徹底し、お客様がいつでも、どこでも欲しい商品を買える個店経営を実現させると述べられています。

RFID導入にあたり、ダンボールでの発送から折りたたみコンテナ(オリコン)への変更など物流システム全体の改革を行いました。その結果、人的作業はピッキングのみにとどまり、ミスのない正確なオペレーションがコスト削減にもつながっています。

また物流システムだけでなく、店舗でも大きな変化をもたらしています。無人レジがその1つです。これまでお客様の不満として大きかったのが「レジ待ち」でした。この解決策としてもRFIDが活用されています。複数の商品を置くだけで、RFIDタグを一括読取して瞬時に精算できる無人レジを設置し、レジ業務を効率化しています。そのほか、検品作業や棚卸し作業などの圧倒的な時間短縮に成功し、販売機会ロスの撲滅や売上増加につながることが期待されています。

→「サプライチェーン改革」のコンテンツはこちら

コンビニ・ドラッグストアの実証実験

ユニクロなどのアパレル業界だけでなく、コンビニやドラッグストアでもRFIDの活用が検討されています。例えば、経済産業省は2025年にコンビニやドラッグストアでのRFID活用を目標に、2017年「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」「ドラッグストアスマート化宣言」を策定しています。

また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、メーカー(P&G、カルビー、サンスター、サントリー、日清食品、ライオン)、卸事業者(三菱食品)、小売事業者(ウエルシア薬局、ファミリーマート、ミニストップ、ローソン)と一緒になって、2019年に「IoT 技術を活用した新たなサプライチェーン情報共有システムの開発/国内消費財サプライチェーンの効率化」の実証実験をしました。

日本の流通システムには、返品・食品ロス、長いリードタイムなどサプライチェーンに多くの無駄が生じています。その原因の一つは、メーカー、卸、小売の各企業間で情報が分断されており、サプライチェーン全体を俯瞰して管理できないことにあります。この解決策が、RFIDによるサプライチェーンの可視化と、企業間の情報共有です。

この実証実験では、メーカーが商品に電子タグを取り付け、その商品の流通過程で各企業がRFIDタグを読み取ります。そして、取得した個品単位の所在・状態などを情報共有システムで共有し、各プレーヤーがメリットを得られることを検証するものです。実証実験の制約から効果測定できていない部分が残っていますが、情報共有システムが機能することは確認され、取得したデータを異なる事業者間で共有する際の課題や解決策が議論されています。

こちらが、NEDO成果報告書でまとめられているサプライチェーン各層に想定されるメリットです。メーカー、中間流通では検品・棚卸など在庫管理の効率化、小売では無人レジなど会計の省力化が考えられます。計画策定については、メーカーの生産計画、中間流通の仕入計画、小売の需要予測の精度向上につながります。そして、タイムリーに情報共有することで、共同配送マッチングを可能とします。

RFIDの活用方法は、在庫管理や無人レジだけではありません。RFIDをセキュリティーゲートに活用して万引き防止に役立てたり、商品棚に敷いたアンテナシートで商品の陳列時間や、お客様が手に取った個数を自動認識したりするなど様々な活用方法が期待されています。このような企業側のメリットだけでなく、消費者側にどのようなメリットをもたらせるかについても同時に検討されています

消費者側のメリットとして検討されている例として、消費期限に応じてリアルタイムに価格を変更したり、お客様が手に取った商品に合わせて広告を表示するなどがあります。このように店頭での購買体験が大きく変化する可能性があります。またRFIDリーダー付きの冷蔵庫にいれることで、家庭で消費期限が管理可能となるといったような活用方法も考えられています。今後さらなる技術の進歩により、RFIDは企業側だけでなく、消費者側にも大きな生活の変化をもたらすでしょう。

海外では試着室に持ち込まれた商品がECサイトから瞬時に売り切れになるなどECサイトとの連携や、店頭で商品を購入したお客様へメール送信するカスタマー・エクスペリエンス改善の事例があります。その他、海外で主流となり始めているネットで注文をして店頭で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up Store)※2でも注文商品と店頭在庫を連携させるのに、RFIDが有用な技術となっています。このようにリアルとデジタルを連携させる技術としてもRFIDは活用されており、今後大きく購買プロセスを変化させていくでしょう

※2 BOPIS: Buy Online Pick-Up Storeの頭文字をとった略語。ECサイトで購入した商品を、リアル店舗で受け取るショッピングスタイル

[参考記事]
→BOPIS:Buy Online Pick-up In Store
→Confra Lovers Invests in the Customer Experience
→Retail Reload, Mainetti Partner on Omnichannel and Big-Data Solutions
→BOPIS May Drive RFID Adoption in Retail

また、RFルーカス社の位置特定ソリューションのように、新たな技術がRFIDの活用範囲を広げています。例えば、Locus Mappingは、RFIDタグをハンディリーダーで読み取るだけで、瞬時にモノの位置を自動取得してデジタルマップに表示できる新たな在庫・物品管理システムです。店舗・倉庫における在庫探索やピッキングの効率化、来店客による店舗の商品位置検索、棚割分析など幅広く活用されています。

そして、カスタムオーダーのアパレルブランドは、裁断した様々なパーツを組み合わせて縫い合わせる多数の製造工程が特徴です。従来は、紙の指示書を目視で確認して工程を管理していましたが、RFIDで自動化する会社も出てきています。実はアパレルに限らず、製造業や物流会社の中にもそのような先進的な管理を始めている企業が増え始めています。

対象物や作業指示書にRFIDタグを貼付し、各工程にリーダーとアンテナを設置することで、誰が、どの工程で、どれくらいの作業に取りかかり、完了しているのか、リアルタイムにデータを自動取得します。作業日報などわずらわしい紙の管理が不要になり、効率的に現場の作業状況を可視化します。そして、最適な人員を割り当て、現場教育に活かすことで生産性をアップします。

 

RFID普及のための課題

上記のようにアパレルや小売にてRFIDを活用した様々な実験や取り組みがなされていますが、同時に普及のための課題も明確になっています。現在課題として考えられているのは大きく3点あります。

1. RFIDタグの単価

2. 読み取り精度

3. 貼付技術

それぞれに関しては下記で詳しく説明いたします。

1. RFIDタグの単価

RFIDタグの単価は種類や購入枚数にもよりますが、大量調達すれば5円以下になっています。アパレルやそれ以外の高単価な商材ではコスト上、大きなハードルとならないため普及が始まっていますが、コンビニやスーパーなどの低単価な消費財・日用雑貨の場合には大きな負担となってしまうため、今後さらなるタグ単価の下落が求められています。逆にタグ単価が下がれば一気に普及する可能性もあります。

RFIDタグの最新価格動向、RFIDの導入事例について以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

RFIDタグの価格は1円以下を実現!?気になるタグの最新価格動向と導入事例を徹底分析!

2. 読み取り精度

読み取り精度も課題です。RFIDタグには金属や水に貼付・遮断されていると情報の読み取りが弱くなるという特徴があります。コンビニやドラックストアでは冷蔵庫や金属棚が使用されているので電波が遮断されてしまいます。また、ポテトチップの袋やペットボトル飲料など、RFIDタグを貼りつける商品自体が金属や水を含む製品であり、商品情報を読み取ることが難しいです。読み取れるように金属や液体に対応している専用タグを活用したとしてもコストに大きな負担がかかってしまうという別の問題が発生します。取り扱っている商材がRFIDに適しているかどうか注意しましょう。

3. 貼付け技術

現在、商品情報の読み込みに活用されているのは主にバーコードです。バーコードは印刷するだけで貼付できるためどのような商品にも貼付できます。しかし、RFIDタグは印刷するだけでなく、各商品に貼り付けなければなりません。アパレルのように下げ札にRFIDタグを入れるなど一定の形式があればハードルは低いですが、形状が異なるさまざまな商品に対して効率的に貼付けする技術はまだ未発達です。

そのため、消費財・日用雑貨のような商材ではRFIDタグの貼付け作業が負担になります。RFIDタグの費用や貼付け作業の負担を上回るメリットを享受できないと、製造過程でのRFIDタグ貼付けにメーカーは協力してくれません。一方で、大量の商品に対して中間流通や小売が貼り付けることも現実的ではありません。

比較的サイズが大きくて数が多くない産業用製品にはRFIDが向いていると言えます。もし、個品へのタグ貼付けが難しくても、ダンボール単位やパレット単位で貼付けして管理できる場合があります。また、バーコードなどのラベルを以前から貼り付けている場合には、貼り付けるものがRFIDタグに代わるだけなので、作業負担が増えずにRFID導入できるでしょう。

その中で、東レのように低コストで生産できる塗布型RFIDタグを開発している企業があります。このような技術が確立されれば安価にRFIDタグを製造できるだけではなく、電子回路を直接プリントすることでバーコードラベルのように貼付できる日が来るかもしれません。まだ読取り距離が短いなど課題もありますが、非常に期待される技術です。

→「レジ自動化の普及を加速させる低コスト塗布型RFID」のコンテンツはこちら

以上のような課題があり、現段階ではコンビニやドラッグストアなどの商品群への導入は難しい状況です。既に単価が下がりはじめており、普及まであと一歩の段階まできていますが、上記のようにまだ大きな課題があることも事実です。しっかり課題を認識した上でどのように活用するのか検討しましょう

→「スマートサプライチェーン実証実験」のコンテンツはこちら

RFID vs 画像認識

最後にRFIDの対抗となり得る技術である画像認識をご紹介いたします。スマート店舗と聞いた時に「Amazon Go」を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。この店舗はAmazonが運営している実際の店舗であり、消費者は商品を取るだけでレジを通す必要はありません。お会計は店舗を去った後にAmazonのアカウントに自動で精算が行われまするものです。

このAmazon GoではRFIDではなく、画像認識技術を使用しています。これは天井にある数百個のカメラから消費者がどの商品を手に取ったかを認識し、自分のアカウントのカゴにいれていくというシステムです。消費者が手に入れるベネフィットは無人レジということでは、RFIDと同じです。しかし、RFIDと画像認識での違いは何でしょうか?

まず、画像認識は主にレジの無人化やマーケティングなど店舗をメインに活用されているのに対して、RFIDは生産から販売までサプライチェーン全体の改善に活用できるということが大きく違います。また画像認識は大量のカメラを設置するため、初期費用が膨大にかかりますがランニングコストは抑えられます。

一方、RFIDは初期費用を抑えられますが、商品それぞれにRFIDタグを取り付ける必要がありランニングコストが継続的にかかるという面があります。その他、画像認識は細かな大きさや容量の違いを識別できないという問題もあります。

上記のように画像認識とRFIDがもたらすメリットは似ていますが、それぞれ導入される目的が異なります。また、それぞれメリット・デメリットが存在しており、どちらが優れているというわけではありません。どちらの技術を選ぶというのではなく、自社で活用したい目的を整理した上で例えばたとえば併用していくことも含めて検討してみてはいかがでしょうか。例えば、以下がLocus Mappingと画像解析を組み合わせた例です。

まとめ

RFIDは小売、流通を変えていく大きな可能性を秘めています。しかし、普及していく上では課題があることも事実です。RFIDタグの価格が下降傾向にあるため、どこかのタイミングで爆発的に普及するかもしれません。現在は、RFIDタグの単価や貼付け技術の影響が少ない製造業、物流、リース、航空、医療などの業界においては、小売・流通に先駆けてRFIDが広がり始めています。企業は変化していく時代においていかれないために、常に情報をキャッチアップしながら、自社に最適なソリューションを探り続けることが大事でしょう。自社のソリューションとしてRFIDを活用できるのか検討してみてはいかがでしょうか。以下の動画も参考にしてみてください。