世界最大級のインターネット通販サイトを運営する米国Amazon社は、商品の配送コストを削減するためにコンテナやカーゴジェット・トレーラーを自社で保有、テクノロジーを活用して自社配送に向けた取り組みを行っています。自社配送で年間約1,200億円の配送コストを削減して、より良いサービスの提供を試みているのです。そのため、Amazon社が巨大な運送会社になる未来は、近い将来に訪れると予測されています。
世界最大級Amazon社が物流業界に参入すれば、さらに競争が激化し、業界で生き残るためにはDX推進が欠かせないものになるでしょう。物流会社は、積極的なIT活用で業務効率化を行う必要があります。本稿では、物流業界IT活用で注目されるテクノロジーについて解説します。
物流業界でIT活用が必要な理由
東京都内で開催された「2020年代の総合物流施策大網に関する検討会」では、物流DXと標準化を重視した施策を推進すると明示されました。なぜ、積極的にIT活用していかなければいけないのでしょうか?まずは、物流業界で求められるITの必要性について解説します。
人材不足が解消できる
物流業界の市場規模は拡大し続けています。矢野経済研究所が2019年7月に発表した「物流17業種総市場を対象にした市場規模推移」によると、2019年度の市場規模は23兆5,410億円で、2020年度の市場規模は24兆80億円になると予測されています。
市場拡大の要因として、医薬品や医療機器分野、低温食品市場の伸び、ネットショッピング利用者の増加が挙げられます。市場規模の拡大は人材不足に直結するため、ITを積極的に活用して業務効率化を図っていかなければなりません。
サービスに付加価値を付けられる
ITテクノロジーを活用した高付加価値の物流サービスで、他社と差別化を図ることが物流会社に求められています。ITを活用すれば、サプライチェーン全体のモノの動きを可視化でき、在庫削減やリードタイム短縮など合理化が目指せます。
また、コスト低減を目指した物流改革の提案も可能です。多機能で高付加価値、高品質なサービスを提供するためにも物流会社は積極的にITを活用していく必要があります。
企業間連携が可能になる
ITテクノロジーを活用し、企業間連携を行うことで、頻発する災害や地球環境問題にも対応できます。東京オリンピックの開催を控える現在、日本経済を成長させるためには、企業の垣根を超えた連携により物流の効率化を実現して、生産性向上につなげていく必要があるのです。
生産性向上のためには、同業他社間での輸配送や保管の共同化、異業種間での共同輸配送や輸送リソースの共同利用、納品時間や納品日の標準化などに取り組む必要がありますが、その際にITが活用されます。
物流業界のIT活用で注目のテクノロジー
IT活用で物流業界が抱える労働力不足解消やサービス品質向上が見込めます。実際に、どのようなテクノロジーを活用していけば良いのでしょうか?次に、物流業界のIT活用で注目されるテクノロジーをご紹介します。
クラウド
物流会社が、自社サーバーを構築する場合は、莫大な初期コストがかかります。また、機材の性能が設置時に固定されるため、容量の変更が行えません。また、繁忙期にはアクセスが集中するため、サーバーダウンが起こる可能性もあります。これらの問題を解決するテクノロジーが「クラウド」です。
クラウドを活用すれば、自社専用サーバーを設置する必要はなく、データ管理や運用は提供会社を通して行われます。クラウドは容量制限がないため、スペックアップも可能。また、故障や災害時のトラブルの影響も受けにくいというメリットがあります。
AI
戦略的な物流マネジメントの実施に役立つテクノロジーとして注目を集めているのがAIです。AIの荷物画像判定技術を活用すれば、荷物の分別の自動化が行えます。また、配送トラックの接触事故や荷崩れ事故などを未然に防ぐために、AIに危険運転を察知させるソリューションも登場。
在庫の需要予測もAIで行えるため、物流マネジメントに役立つテクノロジーとして注目を集めています。
ドローン
物流業界の人手不足を解消するテクノロジーがドローンです。ドローンを活用した物流実験が世界中で行われています。空を飛んで宅配するドローンは、交通渋滞に左右されないため、配達時間も短縮できます。スムーズな物流を実現するための新しいテクノロジーです。
RPA
RPAとは、デスクワーク業務を代わりに実行するソフトウェアロボットです。作業手順がパターン化されている定型業務で実力を発揮します。定型業務を命令した通りに処理させることができるため、ヒューマンエラーの防止効果も得られます。
また、RPAは費用対効果が得られやすいテクノロジーです。定型業務に費やしていた人件費を計算すれば、費用対効果が簡単に数値化できます。そのため、経営者を説得しやすく、導入ハードルは低いといえます。
RFID
RFIDは、離れた場所から複数のICタグ情報を読み取ることができます。一括検品や工程進捗管理で、スピードと正確性を向上でき、棚卸業務の大幅短縮や棚卸しに関する付属業務の短縮が可能です。
また、商品タグ情報を常時監視することで、保管状態や異常発生をリアルタイムに把握することができます。そのため、高度なセキュリティ管理にも役立ちます。RFIDタグの価格の低下や、通信距離が伸びてきたことにより、再注目を集めているテクノロジーです。
ロボット
輸送・保管・荷役・包装・流通加工の各工程を自動で行ってくれる物流ロボットを導入すれば、作業効率が上がります。
物流業界は配送需要の増加と、労働人口の減少で深刻な人手不足問題を抱えています。そのため、ロボットを導入して、現場作業の効率化を図る必要があるのです。自律型協働ロボットを導入すれば、人とロボットが協力する新しい物流現場を実現できます。
シェアリング
大手物流会社では、全工程を自動化して省人化に成功した倉庫を事業者に貸し出していますが、このような大手物流会社の動きを筆頭に、シェアリングサービスが続々と登場しています。効率的な配送業務を実現するために、「荷主と倉庫」「荷主と車両」「荷主とドライバー」を結びつけるマッチングサービスが登場しています。
物流業界のIT活用の成功事例
物流業界で活かせるITテクノロジーをご紹介しましたが、現場で活用するために事例を確認しておきましょう。ここでは、物流業界のIT活用成功事例をご紹介します。
物流人材不足を解消した成功事例
・ドローンでラストワンマイルを配送
中国ではドローン配送サービスが提供されています。2016年には、中国政府は中国郵政と共同でドローン郵便配送ルートを開通させて、その後は民泊施設向けの物資配送を行いました。2018年には、中国大手IT企業アリババがドローン発着場を5カ所設置して、1万件以上のフードデリバリーに成功しています。
・トラックの無人隊列走行
物流人材不足問題を解決するために、経済産業省と国土交通省から「高度な自動走行システムの研究開発」を受託しているのが豊田通商です。2019年度には、先頭車による後続車の一体操作機能と状態監視機能、車両制御装置の冗長化、運転支援機能、異常時の通知システムが開発されました。2020年3月には、実際に、後続車無人状態での隊列走行に成功しており、2021年に本格稼働化される予定です。
・トラック入場予約システムで荷待ち時間を削減
トラックドライバー等が、倉庫への到着時刻を スマートフォン等の携帯端末から事前に予約することができるシステム「Hacobu」で荷待ち時間を削減する物流会社が増えています。全日本トラック協会でもトラック入場予約システムの導入が促進されています。
倉庫内作業の効率化を実現した成功事例
・RFIDによる倉庫作業全自動化
ファーストリテイリングは、2018年春夏商品から全商品を対象にRFIDタグの貼付を開始しました。RFID導入で、商品の検品・入荷・在庫管理・棚卸・販売などの業務効率化がされました。また、マテハン機器を取り扱う大手企業のダイフクと締結して、物流倉庫の超省人化を進めておりRFIDをフル活用しています。
https://blog.rflocus.com/rfid-uniqlo/
・無人搬送ロボットでピッキング作業移動を削減
国内で無人搬送ロボットをいち早く導入したのが、ニトリホールディングスの物流子会社であるホームロジスティクスです。インド発でシンガポールに本社を置くベンチャー企業のGrey Orange(グレイオレンジ社)が開発した、自動搬送ロボットを約80台導入して、ピッキング速度の4.2倍アップに成功しています。
・音声認識によるハンズフリー作業でミス軽減
音声指示や音声入力によるハンズフリー作業で、無駄な時間を短縮するソリューションも登場しています。キーボード入力を音声認識でコントロールできるソフトウェアやウェアラブル型ボイスピッキングシステムが登場。また、さまざまなOSに対応した音声認識組込用開発キットも登場しています。音声認識は1952年に米国のベル研究所から開発が始まり、アメリカの物流会社で流行しています。
大手物流会社のIT活用の動向
物流業界のIT活用事例をご紹介しましたが、国内大手物流会社の動向についても確認しておきましょう。
日立物流:スマートウエアハウスを展開
日立物流は、自動化設備や倉庫リソースのシェアリングサービスを提供する次世代物流センター「スマートウエアハウス(SWH)を中国とアジアに展開することを発表。
国内では、複数事業者での「アセット」「情報システム」「空間」「マンパワー」のシェアリングによる省人化を実現するとともに、従量課金のシンプルな料金体系を設定することで、多種多様なニーズに対応したサービス提供に成功しています。
中国とアジア企業とも協業して、日本と同様のシェアリングサービスを展開するとして注目を集めています。
日本通運:「MeeTruck」を設立
日本通運とソフトバンクは、物流DX支援会社「MeeTruck(ミートラック)」を共同設立しました。DX支援サービスは段階的に開発されていく予定で、2020年10月15日に第1弾となる配車支援サービスの提供を開始。UI設計に優れて操作が簡単なサービスを低価格で提供することで、中小企業の業務業務の効率化を支援します。
また、第2弾では求荷求車マッチングサービス提供が予定されています。両者は2020年1月に、次世代高速通信5Gを活用した「スマート物流」の実証実験を実施。物流DX事業として、動向に注目が集まっています。
ヤマトHD:「YAMATO Next100」を策定
2020年1月にヤマトホールディングスは、経営構造改革プラン「YAMATO Next100」を策定して発表。中長期経営計画を見直して、更なる改革が必要と判断した上での発表に大きな注目が集まりました。
「YAMATO Next100」では、デジタル化とロボティクスを導入して、セールスドライバーが顧客との接点に時間を費やせる環境を構築して顧客関係を強化することに重点が置かれています。また、徹底的にデータ分析を行い、需要と業務量予測の精度を向上させて、予測に基づく人員配置・配車・配送ルートの改善を行います。
佐川GL:ECプラットフォームセンター開設
2020年3月、佐川グローバルロジスティクスは、国内最大級の次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」内の事業所で、通販事業者向けにECプラットフォームサービス提供を開始すると発表。先進的な物流ロボティクスを導入した機械設備やスペースを従量課金制で使用できます。
顧客は、ECプラットフォームサービスを利用することで、物流業務の委託をマテハンの初期投資や倉庫スペースなどの固定費をかけずに、国内配送や通関から海外でのライストマイル配送までワンストップで配送可能です。越境ECビジネスの展開も行えるとして注目を集めています。
物流テックスタートアップ企業
今後、物流業界でビジネス機会を得るためには、積極的なIT活用が不可欠です。そのため、物流テックスタートアップ企業にも注目しておきましょう。
ロボット・ドローン
在庫受入・保管・補充・オーダーピッキングを自動化する自律型モバイルロボット「Ranger GTP」や精工なアルゴリズムによるSKU識別を実現したピッキングロボット「Ranger Pick」を開発。 |
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倉庫内作業のピッキング工程の作業支援を行う自律型協働ロボットPEER(ピア)を開発。 |
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日本の倉庫向けに開発された協働型ピッキングアシストロボットを開発。狭い通路でも安全に走行ができ、AMR以外の倉庫ロボットとの連携が行える。 |
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国土交通省と共同でドローン配送を研究しているスタートアップ企業。物流用ドローンを開発。 |
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完全自動運行機能付きの追従運搬ロボットを開発。配車最適化アルゴリズ ムに基づく高度な自動配車に対応可能。 |
クラウド・AI・RPA
国内800以上の物流倉庫と連携可能で、注文確認から発送依頼まで出荷業務の完全自動化を支援するクラウドサービス。 |
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リアルタイムの動態進捗管理機能を搭載しており、配車作業の場所や進捗度、利用した道などから配送計画が行えるクラウドサービス。 |
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物流倉庫の情報連携強化、予約システムを利用したスケジュール管理などで配車担当者の荷待ち時間を短縮するクラウドサービス。 |
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車両の移動に関するリアルタイムの履歴データを収集できるクラウドサービス。車両の健康状態(メンテナンス時期)を予測するサービスなども提供している。 |
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多モールの在庫管理・商品管理・受注管理・顧客管理を改善するクラウドサービス。 |
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再配達問題解決のため、スマホ連動型置き配バッグOKIPPA(簡易宅配ボックス)サービスを提供。 |
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IoT技術搭載でセキュリティ面でも安心して利用できるスマホで予約スマートコインロッカー「SPACER」を開発。 |
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RFID(電子タグ)高精度位置特定の物流IoTソリューションを提供。店舗や工場、倉庫などの在庫管理業務における効率化と省人化に貢献。 |
シェアリング・マッチング
荷物を届けたい人とフリーランスドライバーを繋ぐマッチングプラットフォーム。日本最大級のドライバー登録数を誇り、圧倒的な配送スピードを実現する。 |
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倉庫を貸したい方と借りたい方を繋ぐマッチングプラットフォーム。倉庫の空きスペースを有効活用するためのシェアリングエコノミー。 |
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「食べ物が持続的に作られ、無駄なく届き、全ての人が食べる喜びにあふれる社会」の実現を目指した生産者と消費者を繋ぐマッチングプラットフォーム。 |
まとめ
国内の物流業界は人手不足などの問題も抱えており、業務効率化は急務です。また、物流業界に米国大手企業Amazonが参入し、市場も大きく変わろうとしています。
Amazonは2020年度にも日本国内に4カ所の物流拠点を開設。合計21拠点へと拡大しています。Amazon社が巨大な運送会社になる未来は、近い将来に訪れると予測されています。そのため、物流業界でビジネス機会を得るためには、積極的なIT活用が欠かせません。
国物流サービスに付加価値を与えられるソリューションを提供する国内スタートアップ企業も続々と登場しています。これらのソリューションに注目し、物流革命をしていくことが物流会社に求められているのです。ぜひ、この記事を参考に導入を検討してみてください。