物流にかかるコストの削減は、製造業をはじめ多くの企業が持つ経営課題です。労働力不足を背景にトラック運賃や荷役費の値上げが続き、売上高物流コスト比率は上昇傾向にあります。
関係団体の調査でも、2020年度調査では大幅に上昇し、過去20年間の調査結果と比較しても、2番目に高い結果を示しています。
一般的に、製造業では売り上げの5%ほどを物流費が占めています。これを見直すことでコスト削減が期待できます。
しかし物流コストといっても、複数の項目が含まれているため、どこを削減すべきかすぐには把握できないことがあります。そのため、物流コストを分解していき、問題点を発見するプロセスが必要です。
本稿で物流コストの基本を理解しましょう。
物流コストの基本の分類について解説
物流とは、「物資を供給者から需要者へ、時間的及び空間的に移動する過程の活動。」と定義されています(JIS Z 0111:2006)。別の言葉で言い換えると、モノの場所を移動するプロセスのことです。メーカーから販売業者へ、販売業者から消費者へと製品が移動するプロセスが物流です。
物流に必要な輸送費をはじめ、梱包、事務処理、商品管理、倉庫維持費などの費用が物流コストに含まれます。
物流コストは、支払形態別、物流プロセス別などに分類できます。部門ごとに発生した物流コストを全社で把握すると、効率化しやすくなります。
支払形態別分類
投入要素別に集計した費用を、誰に支払うか(内製・外注)で分類したのが、支払形態別分類です。
支払物流コスト
自社以外へ発注・委託した業務に対して支払われる費用を支払物流コストと呼びます。運送会社への依頼、レンタル倉庫代、パッキング作業などの委託業務が該当します。支払帳票などから実績値で把握可能です。
社内物流コスト
自社内で行った業務に対して発生する費用を社内物流コストと呼びます。自社配送(車両維持費、燃料費、駐車場代等含む)、輸送に関する作業を行った人件費などが該当します。
物流プロセス別分類
費用をプロセスごとに分類したのが物流プロセス別分類です。
調達物流費
原材料を調達する時のコストを調達物流費と呼びます。
社内物流費
社内業務における物流コストを社内物流費と呼びます。自社で保有するトラックの車両費・修繕費、関連人件費などが該当します。
販売物流費
製品を販売する時のコストを販売物流費と呼びます。
物流コストの内訳は
物流コストの内訳は主に以下の5つに分けられます。
運送費
トラック、船、飛行機など、運送する際に発生するコストです。輸送費の半分以上を占めます。運送費を削減できるとコスト削減効果が出やすくなります。
保管費
倉庫の賃貸料、保管料、入出庫量など、製品の保管に関連するコストです。商品の大きさ、数量、保管日数などにより料金が変動します。保管スペースの広さで費用を支払う契約形態もあります。
荷役費
入出庫費、梱包費など、製品を入荷・出荷する際に発生するコストです。
物流管理人件費
物流を管理するコストです。製品になる前に発生する社内物流費と、原材料を調達する際に発生する調達物流費に分かれます。
包装費
包装費とは、倉庫や物流センター内で行われる包装・梱包作業で発生するコストです。ダンボール、緩衝材、テープ及びフィルムなどの梱包資材費用が該当します。また、商品を組み合わせる作業や包装・梱包作業に関与する人件費も包装費に含まれます。
物流コスト比率とは
物流コスト比率とは、売上高における物流コストが占める比率をいいます。日本ロジスティックスシステム協会『2022年度 物流コスト調査報告書【概要版】』によると、売上高における物流コストが占める比率は5.31%です。
物流コスト比率の目安は
物流コストの内訳は「輸送費」「保管費」「その他(荷役費や物流管理人件費、包装費)」で、以下のような構成比になっています。
■物流コストの構成比
輸送費:55.1%
保管費:16.9%
その他:28.0%
出典元:『2022年度 物流コスト調査報告書【概要版】』
物流コストの計算
物流コストの計算は、以下のような流れでおこないます。
①物流フロー図を作成する。
②コスト算定表を作成し、支払物流コストと社内物流コストを算出。
③フロー図や算定表を参考にしながら、どの部分に課題があるかを見つけ出す。
中小企業庁では、「物流コスト算定マニュアル」を公開しています。これは過去に経済産業省が公開した「物流コスト算定・活用マニュアル」をわかりやすく解説したものです。同マニュアルでは参考情報として、自社物流コストのチェックリストが掲載されています。
製造業では「業務の定型化が遅れているか」「業務マニュアルは作成しているか」「倉庫の機械化が遅れているか」などの項目があります。
物流コストの計算は、一度きりではなく定期的に調査しながら過去の状況と比較することが大切です。
物流ABCについて
物流コスト計算では、概算費用を把握できても、細かな金額把握が難しいという課題がありました。また支払形態別分類で算定するため、作業ごとの指標には用いにくいものでした。そこで代わりに使われるようになったのが、物流ABCです。
物流ABCとは、活動基準原価計算と呼ばれる物流コストの管理手法です。ABCはActivity Based Costingの頭文字で、アクティビティ(作業)ごとに原価計算をおこないます。作業ごとにコストを計算し、ムダの多い作業は代替手段を見つける、改善する、作業そのものをやめる、などの方法を検討します。
おおまかには、以下のような流れでおこないます。
①物流拠点ごとに作業を洗い出し、「入荷」「検品」など作業単位で項目として設定する。
②人件費、機械運用コストなど投入要素ごとのコストを計算する。
③投入要素別コストを、作業ごとに配分する(作業ごとの原価を算出)。
④月間処理量を調査する。作業原価÷処理量で作業単価を算出。
物流ABCの特徴は、大きく分けて以下の2つです。
物流作業ごとの原価が把握できる
物流ABCでは、入庫、出庫、ピッキング、梱包など、物流作業単位で単価を算出し、コストを計算します。算出した原価や単価は、物流管理や効率化における指標としても役立ちます。
作業を分解してコストの発生原因を把握できる
どの作業にコストがかかり、どの作業に削減余地があるかを数値で可視化できます。今までは主観で捉えていた作業負担も客観的に把握可能です。物流ABCで算定したところ、清掃作業の原価が原価の上位にきたという例もあります。
調査はそれなりに手間もかかり、スタッフの協力も不可欠です。しかし数値で把握することで今まで見えなかった情報を得ることができます。センサーを活用して、処理量を自動取得するなどの方法も視野に入れていきましょう。
物流コスト削減の着目ポイント
コスト削減の着目ポイントは、以下の3つになります。
業務効率化で人件費を削減できるか
人件費は、物流コストのなかでも大きな比率を占めます。フロー改善、自動化などにより業務の効率化を行い、人件費を削減できるかに着目します。
業務効率化するためには工程管理が欠かせません。工程管理について詳しく知りたい方は、下記の記事をお読みください。
関連記事:『工程管理とは?工程管理の6つの課題と解決方法をわかりやすく解説』
ムダを省いて保管費を抑えられるか
在庫の適正化、スペースの有効利用など、ムダを省いて保管費を抑えられるかどうかに着目します。委託先を変えて単価を見直すという選択肢も有効です。
情報処理費を最適化できるか
システム化をおこない、需要予測による在庫管理や仕入の最適化によってコストを削減できます。
物流コストを削減する方法
物流コストを削減するためには、まず自社の物流コストを正確に把握します。その上で前項で挙げた人件費、保管費、情報処理費の削減余地があるかを検討します。
日本ロジスティクスシステム協会が2020年4月に公表した調査結果では、過去1年程度の間に企業が取り組んだ物流コスト適正化策について、最も多く実施されたコスト適正化策は在庫削減、次いで多かったのは物流拠点の見直しでした。
在庫削減により保管費を削減でき、物流拠点の見直しで効率化し、人件費や保管費などのコストを整理できます。
ほかにも、拠点の集約やルール策定によって削減できる可能性があります。
物流プラットフォームの整備
様々な業界で、同業他社と物流を共通化する取り組みが進んでいます。2016年には物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)が一部改正され、複数企業の連携による省力化・効率化・環境負荷軽減につながる事業を支援する制度も整ってきました。
味の素やハウス食品などの食品メーカーと物流企業が共同で設立したF-LINEは、全国規模で共同配送をおこなう新会社を設立。無駄のない共同配送の実現し、安定的な物流体制の構築をめざしています。
また中継地点でドライバーを交代して車中泊・長時間勤務を解消する取り組みや、船舶や鉄道を活用するモーダルシフトも推進しています。
ビール業界、日用品業界のほか大手コンビニや事務機メーカーでも同様に、企業同士が協働して共同配送網を整備する動きが進んでいます。貨物列車や路線バスの空きスペースを宅配会社が活用して貨客混載輸送をおこなうなど、既存交通網の空きスペースを利用した異業種連携型のモーダルシフトも進んでいます。
※モーダルシフト(JIS Z 0111:2006)
「地域間の、量をまとめた幹線貨物輸送をトラックから鉄道又は内航海運へ転換し、トラックと連携して複合一貫輸送を推進すること。」
拠点の集約
全国に配置した拠点を集約することで、倉庫の賃借料や保管費、諸経費などを削減できます。
冷蔵倉庫事業と食品販売事業を手掛ける横浜冷凍(ヨコレイ)では、物流拠点としてヨコレイ横浜みらいサテライトを新設し、関東周辺にある保管拠点を集約して効率化。運行するトラック台数の大幅な削減や、連携する運送会社のトラック事業所を併設し、手待ち時間の95%削減を見込んでいます。
倉庫内作業ルールの策定
自社で倉庫を運用している場合、ルールを策定してスタッフに周知徹底することで、ムダをなくしてコスト削減が期待できます。マニュアルを整備することで作業のバラツキを防ぎ、ミスを減らします。
また製造業で広く行われている「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を徹底する5Sは、倉庫内のルールとしても有効です。モノが整理整頓された環境になることで、生産性向上、事故防止が期待できます。
物流管理システムの導入
物流業務では、輸送や保管、荷役、包装、流通加工など多様なプロセスがあります。システムを導入して工程の一部を自動化することで、人件費削減や生産性向上、スペース効率化などを実現できます。
代表的なのが、倉庫での商品管理や配送管理を一元管理する物流管理システムです。JISでは「物流を対象とした情報システム。このシステムには、物流の各機能を効率化、高度化するための機能分野、受発注から配送、保管から在庫、更に調達及び回収の業務分野、これらに関連した計画・実施・評価の経営過程の分野、更に、運輸業、倉庫業などの物流事業者と荷主との関連を含めた分野がある。」と定義されています。(JIS Z 0111:2006)
物流管理システムは、倉庫管理システム(WMS)、配送管理システム(TMS)に大別できます。省人化、効率化、ヒューマンエラー削減のほか、データ分析・活用などが期待できます。
倉庫管理システムでは、RFIDを活用した効率化に関心が高まっています。バーコードと違いRFIDは一点ずつ読み取る必要がなく、遠隔から瞬時に大量一括読み取りができますので、棚卸しや入出荷の作業時間を80%程度削減できることが多いです。また、RFIDは電波で一括読み取りしてくれるので、作業効率化に大きく貢献しています。
運送業界で導入促進の取り組みが進んでいるのが、オンライン上でトラックを予約できる「トラック予約受付システム」です。ドライバーの待ち時間削減や輸送効率化になるだけでなく、荷主側でも効率化や状況の可視化、受付人員削減などのコスト削減につながります。
アスクル、イオン、ビックカメラが導入するクラウドサービスのMOVO(Hacobu)、TMSと連携できるトラック簿(モノフル)、Airレジなどと共にiPadアプリで利用できるAirウェイト(リクルートライフスタイル)など、複数企業でパッケージ・サービスを提供しています。
トラック予約受付システムを導入したアスクルでは、導入後1か月で平均待機時間が約50%削減。入庫車両の受付・作業状況が電子化され、庫内作業効率が向上しました。
業務のアウトソーシング
自社でおこなっていた物流業務全体をアウトソーシングする選択肢もあります。専門業者に委託することで効率化できる上、付加価値を生まない作業は外注し、コア業務に集中できるというメリットもあります。
物流業務全体を外部の企業にアウトソーシングすることを3PL(サードパーティー・ロジスティクス)と呼びます。
まとめ
売上高物流コスト比率は今後も増加すると見られており、今まで以上に物流コスト見直し・削減が重要課題になってきています。
製造業では物流業務は付加価値を生まないノンコア業務のため、物流業務の積極的な自動化・効率化が求められます。場合によっては全社的なデジタル化や周辺業務を含めたBPO、競合との連携、商習慣の廃止など、単なるコスト削減だけでなく大きな変革も必要になります。
物流コスト削減に寄与するRIFD活用のヒント
https://blog.rflocus.com/rfid/
RFルーカスの物流関連記事へのリンク
https://blog.rflocus.com/%e7%89%a9%e6%b5%81/