2016年にRPAが登場して「RPA元年」と呼ばれるほど、大きな注目を浴びました。RPAのポテンシャルは高く、三井住友銀行では、約1,500人分の業務量削減をRPAによる業務自動化で実現しようとしています。その一方で、矢野経済研究所の調査結果によると、RPAの存在を知っているけれど、成功体験を積めずに頭を抱える企業も多いようです。
このような悩みを抱えている企業は、事業規模に見合ったRPAソフトやベンダーを選ぶことで解決するかもしれません。本稿では、RPAを導入して業務効率化した成功事例&おすすめソフト13選をご紹介します。
RPAとは
RPA(Robotics Process Automation)は、コンピュータ上で行われる業務プロセスを自動化する技術です。この技術を導入すると、どのような効果があるのでしょうか?まずは、RPAの特徴について分かりやすく解説します。
RPAの市場規模
RPAは2016年に登場して以来、世界中で市場規模を伸ばし続けていますが、国内でも導入企業が増えています。矢野経済研究所「RPA市場に関する調査を実施(2020年)」では、RPA市場規模は2020年度に729億円、2023年度には1,520億円にも拡大すると予測されています。3年間で2倍に市場拡大するほど、RPAによる業務効率化は注目を浴びているのです。
RPAのメリット
RPAには、次のようなメリットがあげられます。
業務効率化
RPAはコンピュータ上で行われる業務プロセスを自動化できるため、業務効率化ができます。また、24時間365日稼働するため、大幅なスケジュール短縮が可能です。業務効率化を行えば、企画検討や業務改善などのコア業務に注力できるようになります。
コスト削減
業務効率化によるコスト削減の効果も得られます。従来は入力作業や単純作業にも人件費が必要でした。しかし、RPAで業務プロセスを自動化すれば、これらの人件費は必要なくなります。
作業ミスの抑制
手入力による作業ミスを完全になくすことは難しいです。しかし、RPAはロボットのため作業ミスは起きません。
業務の見直しができる
RPAを導入する場合は、業務内容の調査や業務フローの確認が必要です。そのため、業務の見直しの機会にもなるでしょう。RPAはプログラミング技術が必要なく、直感的に変更ができるRPAツールが多いです。そのため、現場レベルで開発できることも魅力となっています。
RPAのデメリット
RPAには、メリットだけではなく、デメリットもあります。
費用対効果が高いとは限らない
RPAを活用するためには、RPAの選定・RPAの指示書の策定・導入後の研修が必要です。これらを通常業務と並行して行うことは難しいため、外注に依頼する企業も多いですが、少なくとも年間数十万円の費用がかかります。
RPAに任せる業務量が少ないと費用対効果は得られません。そのためRPAを導入する場合は、費用対効果を十分に精査する必要があります。
業務変更時には対応が必要
ロボットは定められたルールに基づいて業務するため、ルールを変更する場合はロボットの指示を修正しなければなりません。適切な修正をしなければ、誤作動が発生してしまい業務に支障をきたします。
停止する恐れがある
RPAが何らかの理由で停止する恐れがあります。自動停止の原因として、ブラウザやOSのバージョンアップが挙げられます。そのため、自動停止した場合のフロー作成をしたり、定期的なメンテナンスをしたりしなければなりません。
RPAツール・ソフトの選び方
豊富な種類のRPAツール・ソフトが登場しているため、どのように選べばよいか悩むこともあるかもしれません。ここでは、RPAツール・ソフトの選び方をご紹介します。
「デスクトップ型」か「サーバー型」か
RPAは「デスクトップ型」と「サーバー型」に大きく分類できます。
・デスクトップ型
パソコン1台にインストールするタイプのRPAです。パソコンユーザーに特化した業務に限定されるため、業務規模の大きなデータ処理には向いていません。しかし、手軽にRPAを試すことができます。
・サーバー型
サーバーにインストールするタイプのRPAです。複数のパソコンを利用できるため、業務規模の大きなデータ処理も行えます。
自動化したい業務に対応しているか
RPAを導入する前に、導入目的を明確にしておくことが大切です。具体的にどのような業務を自動化したいかを洗い出します。そして、自動化したい業務に対応するRPAを選ぶことで高い効果が得られます。
RPAの中には、便利な機能が大量に組み込まれた製品もありますが、多機能なRPAを導入すると使いこなせません。そのため、自動化したい業務に対応しているRPAを選びましょう。
規模に見合うシステムであるか
RPAには対応可能な業務規模があるため、自社でどのような業務を自動化したいか検討しなければなりません。対応する業務規模が大きくなるほど、価格が高くなります。そのため、自動化したい業務の規模と価格のバランスを考えてシステムを導入しましょう。
セキュリティ面は安全であるか
RPAを導入する際には、セキュリティの機能が備わっているかを必ず確認しましょう。特に、インターネットに繋げて利用するクラウド型RPAツールを利用する場合は、セキュリティに注意してください。もし、堅牢なセキュリティを構築したい企業や部署ごとに管理したい企業はサーバー型RPAを導入しましょう。
サポート体制が充実しているか
RPAツールは、必要な設定をして終了するものではなく、定期的に見直していかなければなりません。設定が容易でも、突然の不具合が生じた場合は業務が停止してしまいます。このような緊急事態にも対処できるかを見据えて、サポート体制が充実しているかも確認しましょう。
補足:「無料版」と「有料版」の違いについて
RPAには、無料版RPAと有料版RPAがありますが、サポート内容が異なります。無料版RPAにはサポート機能が用意されていないことがあります。また、試作品の運用だけ無料版で行えるなどトライアルが設けられている製品もあるので、これらの違いを理解した上でRPAを選びましょう。
【無料版】RPAツール・ソフト6選
RPAをお試しで導入したい場合は、無料版RPAツールがおすすめです。ここでは、無料版RPAツール・ソフトをご紹介します。
小規模事業者向けRPA「UiPath Community Edition」
UiPath Community Editionは、個人事業主や小規模事業主向けに提供されている無料版RPA製品です。試験導入であれば60日間のトライアル期間で試すことができます。
実務でRPAを導入する場合は、ライセンスが必要になるので注意してください。また、UiPath Academyという無料のE-ラーニングも提供しているため、RPAを試験導入してみたい方におすすめのRPA製品です。
90ヶ国で導入されたRPA「Automation Anywhere」
Automation Anywhereは、米国の製品です。全世界90ヶ国以上で導入されている実績があり、日本法人も設立されるなど勢いのある製品です。形式の異なるドキュメントからデータ抽出できる「IQ Bot」が搭載されています。
また、RPAでどのくらいの業務効率化が行えたかをデータ分析できる機能も搭載されています。そのため、RPAで業務効率化だけではなく、効果検証も実施したい方におすすめのRPA製品です。
国内で開発されたRPA「マクロマン」
マクロマンは、東京都千代田区のコクー株式会社が開発した業務自動化ロボットです。RPAで業務効率化するためのスクリプト作成方法が分からない場合は、RPAに関する知見を持つスタッフが常駐でサポートしてくれます。
サポート費用は発生しますが、RPAツールを無料で使用したい方向けのRPA製品です。
ワークフロー完結型RPA「 Robotic Crowd」
Robotic Crowdは、2週間のトライアル期間が用意されているクラウド型RPAです。クラウド型RPAであるため、拡張性も抜群です。複雑な社内システムとの連携や外部APIとの連携をスムーズに行えます。
グラフィカルにRPAを活用する業務フローを記録することができるため、操作性に優れているところも魅力となっています。
テスト作業の自動化が行えるRPA「SikuliX」
SikuliXとは、画像認識技術が搭載されたしたUI操作自動化ツールです。OCR機能が搭載されているため、データから文字を取得したい際に役立ちます。RPA用途としての利用も可能です。
例えば、検索ボックスに検索ワードを入力して検索ボタンをクリックするなど、視覚的な操作をワークフローとして自動化できます。
Windows操作の自動化が行えるRPA「UWSC」
UWSCは、Windows上のキーボードやマウス操作を自動化できる無料のソフトウェアです。
UWSCを起動して録画ボタンを押すことで、作業の録画が開始され、停止ボタンまでの作業がテキストベースで自動的に記録できます。再生ボタンを押すと記録された作業内容が自動で実行される仕組みです。
保存したファイルを修正・追記することで、不要なマウス操作を省くことができます。
【有料版】RPAツール・ソフト6選
RPA製品を導入して本格的に業務効率化を図りたい場合は、有料版RPAツールがおすすめです。ここでは、有料版RPAツール・ソフトをご紹介します。
NTT研究所で誕生した国産RPA「WinActor」
WinActorは、2010年にNTT研究所で誕生した国産製品です。Windows端末のアプリケーションの操作手順をシナリオとして学習して自動化します。
完全日本語対応なので、操作が簡単と人気を集めており、導入実績が多いRPA製品。経験豊富なスタッフによるサポートも魅力となっています。
操作性に拘り抜いた「NEC Software Robot Solution」
NEC Software Robot Solitionは、誰でも簡単に操作できるUIに拘り抜いたRPA製品です。そのため、部門担当者毎にロボット作成したいと考える企業から支持を集めています。
また、RPA製品では珍しい買取ライセンスを提供しており、運用体制に合わせた導入が行える製品です。
事務系作業の効率化に特化した「BizRobo!」
BizRobo!は、事務系業務の効率化に特化したRPA製品です。情報の転記作業や情報収集、数字集計をロボットに任せることができます。
これらの業務を自動化することで、よりコアワークに集中することができるのです。そのため、事務系業務のホワイトカラーの仕事から開放されたい企業におすすめの製品です。
ロボット作成・実行・管理の一元化を実現「Blue Prism」
Blue Prismは、ロボットの作成・実行・管理が集約されているRPA製品です。誰が、どのロボットを作成して実行したのかを把握でき、他のユーザーにロボットの編集がされないようにロックすることも可能です。
また、認証情報も暗号化された状態で保存できるため、セキュリティ面も安心。そのため、RPAを導入する上で管理体制やセキュリティ体制を整えたい企業におすすめの製品です。
複数のロボットを高速に動かせる「Kofax Kapow」
Kofax Kapowは、富士通とKofaxが提携して開発したRPA製品です。人間の行動を模倣とするロボットを作成して、繰り返しの手作業で行っているタスクを自動化します。セキュリティ機構を備えたサーバー上で業務を自動化。複数のロボットを高速に動かせるということが大きな強みとなっています。
Nice Robotic Automation
バックオフィスを自動化するNice Robotic Automationは、サーバ管理型のRPA製品です。ロボットの価格は1体350万円からで、投資額回収期間は8ヵ月~2年6ヵ月と言われています。
管理画面では、どれぐらいの業務効率化が実現できたか分析することもできます。そのため、RPA導入の効果検証をしたい企業におすすめの製品です。
RPA導入で業務効率化を実現した成功事例
これまでRPA製品について解説してきましたが、実際に導入した企業はどのような効果が得られているのでしょうか?ここでは、RPA導入で業務効率化を実現した成功事例をご紹介します。
三井住友銀行(金融業)
三井住友銀行は、業務改革室を設置してRPAを活用した業務改革に取り組んでいます。本部部署を対象に業務を可視化して無駄な業務の廃止。また、重複する業務の集約を進め、残る業務の中でRPAに代替可能な業務についてRPAを導入しています。
これまで、RPAによる自動化で、約200業務40万時間の業務削減に成功しました。三井住友銀行では、約1,500人分の業務量削減を目指し、人員余力を捻出する計画が立てられています。具体的な業務については非公開となっていますが、2017年度にRPAを導入するなど早い段階で取り組まれていた成功事例です。
マルコメ株式会社(製造業)
マルコメ株式会社では、50社以上ある卸先のPOSデータ収集に課題を抱えていました。1社のPOSデータ収集につき約20分もかかり、膨大な時間が社内課題として挙げられていたのです。このPOSデータ収集作業をRPAに移行させることで、1社につき約5分まで作業時間を短縮できました。
株式会社オープンハウス(不動産業)
2020年度には5,700億円の売上を記録するなど急成長を遂げている株式会社オープンハウス。グループ全体で8千棟の戸建て住宅を取り扱っているオープンハウスは、膨大な件数の物件情報の基幹システムでの入力を手作業で行っていました。これらの入力業務をRPAで自動化しました。
プログラミング用語を必要とせずにロボット開発ができたり、各システムと連携したりして業務効率化を加速。この取り組みが、オープンハウスのビジネススピードに直結しています。
日本通運株式会社(運送業)
日本通運では、累計500台のロボット導入をして、作業時間を100万時間削減する目標を掲げて取り組まれています。2018年4月からRPAを導入して、2019年度時点では、年間6万751時間の定型業務の削減に成功しました。
通運業務では、着通運業者のスポット発注と支払業務の自動化を実現。メール業務では添付ファイルを特定のフォルダに保存、印刷までを自動化。作業計画関連では、作業計画や完了報告書の作成をRPAで自動化しています。また、社内でRPAマスターの養成などにも取り組まれています。
神奈川県庁(自治体)
自治体でもRPAを活用した働き方改革推進がされています。神奈川県庁は、通勤手当の認定や災害時の職員の配備計画書の作成などRPAで自動化しています。RPAを活用することで、全体処理期間が約30日の作業を約5日へ短縮。また、24時間処理可能であるため、スケジュール短縮が見込めました。
どこまでの条件をRPAに組み込むかの課題はありますが、設定した処理条件において確実に処理できることを確認できたため、本格導入に向けて検討がされ始めています。
まとめ
今回はRPAの業務効率化成功事例とおすすめソフトをご紹介しました。2016年度にRPAが誕生してから多くの企業に認知されましたが、RPAを活用して業務効率化に成功している企業は少ないのが現状です。しかし、さまざまなRPAソフトを開発するベンダーが登場してきました。
手厚いサポートが受けられるベンダー、規模に見合うRPAが導入できるベンダーであれば、従来の課題が克服できるかもしれません。ぜひ、これを機会にRPAを活用した業務効率化に取り組んでみてください。